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2007.12.13 |
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不安定化の元は民族問題バーデンで延々と議論が続いてきたが、結局のところ、コソボの泥沼化は必至と見た方がよさそうだ。当然の帰結と言える。 なにせ、2007年6月、Bush大統領が民族独立を煽ったのだから。 “George Bush declared yesterday that he had made up his mind that Kosovo should be an independent country,“(1) これで、世界が不安定化へと突き進むことになってしまった。 ことはコソボだけでとどまらないからだ。 それはともかく、米国が認めたとなれば、コソボ(回教・アルバニア人)が独立に走るのは時間の問題。といって、今もって、スラブ連邦(ユーゴスラビア)の盟主と考えていそうなセルビア(正教会・スラブ人)が独立を認める訳もない。 そして、ロシアは、バルカンのスラブ勢力を傘下におさめるつもりなのである。(2) この状況では、玉虫色の曖昧な合意で、問題を先送りするのは無理と見てよいだろう。外交交渉を繰り返したところで、解決できる問題ではないことは歴然としているからだ。コソボにしてみれば、独立か、隷属かの二者択一しかないのである。
例えば、ハンガリーは領土を割譲させられたので、隣国(スロベニア、セルビアのボイボディナ自治州、ルーマニア)に民族(フン族のマジャール人)が残っているし、ルーマニア語圏のモルドバにしても、その国境線は故意に(スターリン主義)住んでいる民族と合わないように設定されており、民族統合を阻むようになっている。 こんな状態で民族自決などと言い出したら、とんでもない混乱が待っているのは必定。 そのため、ともかく、“手をつけない”合意のもとに、戦乱を防いできただけにすぎない。 しかし、冷戦の重しがとれ、グローバル化が進むと、途端にほころびが見えてきたということ。 そのなかでも、コソボはどうにも収まりがつかないところまで来てしまった。 ここで紛争が再燃すれば、目と鼻の先のEU加盟国に、一挙に難民が押し寄せることになる。 つまり、EUの先進国の本音としては、セルビアが余り目立たないように武力でコソボを安定させて欲しかったのである。ところが、コソボ民族運動の抵抗が余りに激しく、セルビアが、目に余るような弾圧を始めたので、看過できなくなったということだろう。 と言って、どうにもならないから、米国に下駄を預けるしかなかった訳だ。その結果、米国が武力でセルビアを停戦に追い込んだ訳である。 しかし、この先も米国が面倒を見るとは限らない。と言って、国連に下駄を預けたところで、国内独立問題を抱えるロシアが、スラブ民族の連邦国家を強硬に支持するのは当たり前。解決どころか、安保理で拒否権を行使し、対立のさらなる拡大を引き起こしかねない。 欧州は、とてつもなく難しい問題に直面しているということ。 まさか、欧州内で戦争を始めるつもりではないとは思うが。 米国は非民族主義のイデオロギー国家だから、民族問題にかかわると必ず矛盾が吹き出てくる。 “人種の坩堝”を自称する米国にとっては、自国の利益にたいした影響を与えないなら、独立したい地域はご随意に、という姿勢をとっておかしくない。混乱の元凶は偏狭な民族主義であり、そんなつまらぬ思想は米国の知ったところではない、と考えるに違いないからだ。 しかも、ご都合主義的に、その時点で判断した親米勢力を支援したりする。 これが、世界を混乱させる一大要因である。 特に、ロシアのような多民族の大国は、内部に数多くの民族抵抗運動を抱えているから、大事である。米ロの外交関係が上手くいっていれば、民族独立の動きを抑える軍事活動は、テロリスト撲滅として黙認されるが、一旦、不調になると、とたんに人権問題として浮上してくる。抵抗運動側も、このことを承知の上で動いている。 要するに、民族問題が外交カードとして使われているということ。危険な外交がいまもって繰り広げられているということでもある。 それでも、大国間には、バランス感覚が働くから、なんとか大乱を抑えることができたのである。たまたま幸運だったということ。 これが、中小国になると、民族問題が勃発すると押さえが効かなくなる。 ベルギーのような先進国でさえ、産業の中心である北部と経済不調な南部の対立は抜き差しならぬ状態なのである。 → 「国際協調・民族協調主義の胡散臭さ 」 (2007年10月11日) アフガニスタンも同じことが言えよう。民族が入り乱れている国であり、安定化は困難の極みと言わざるを得まい。 特に厄介なのは、アフガニスタン中部から南部に住み、人口の半分近くを占めるPashtun人(スンニ派)の動き。国境を越えたパキスタン側にも数多くの人が住んでおり、少なくとも人口の1割以上だ。割合が小さいので軽視しがちだが、絶対数からいえばパキスタン側の方が多いのである。 この辺りではPashtun人は一大民族である。
要するに、人工的に作った国境であるから、紛争の火種がなくなることはないのである。 なかでも厄介なのは、アフガニスタン現政権の大統領がPashtun人だが、親パキスタンではないと言う点。パキスタンにしてみれば、これは穏やかならざる事態である。 パキスタンも多民族国家であり、反パキスタンのPashtun政権を容認できる筈がないのである。
そんなことを考えれば、パキスタンの本音は、現パキスタン政権と戦う、Pashtun民族派のTaliban支援に違いない。 宗教原理主義勢力とはいえ、部族体制を壊すつもりはないし、「パシュトゥニスタン」運動に火をつける可能性は極めて低いからだ。しかも、パキスタン政府の意向に逆らうつもりはなさそうだ。 アフガニスタンでは、NATO軍はすでに統治力を失っており、Taliban支配に逆戻りしつつあるというが、(3)パキスタン軍がTalibanを支援していると考えるしかあるまい。 パキスタンの政権は、米国と対立でもすれば、インドと組んで国を潰されかねないとの圧力を感じているに違いないから、米国の要請があれば、原理主義勢力を時々取り締まることになる。 しかし、そんなことに意義があると考えている訳ではなく、独立運動を潰し、周囲の国の介入を抑えることが第一義だ。米国の意向に沿う動きをしていると見えたら、その裏でなんらかの見返りを得たということ。 どんな政権だろうが、この状況は変えようがなかろう。 米国ができることといえば、パキスタン国内の反対勢力を支援して政権を揺さぶること位ではないか。 論旨からいえば、これに続いて、それでは、アフガニスタンで“日本は何ができるか”となるところだが、国会の状況を見れば、書く気など湧きようがない。 --- 参照 --- (1) “Bush insists Kosovo must be independent and receives hero's welcome in Albania“ Guardian [2007.6.11] http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2099981,00.html (2) Richard Holbrooke: “Back to the Brink In the Balkans” Washington Post [2007.11.25] http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/11/23/AR2007112301237.html New York Times Editorial: “Dangerous, Unfinished Business” [2007.12.6] http://www.nytimes.com/2007/12/06/opinion/06wed2.html?_r=1&oref=slogin (3) Richard Norton-Taylor: “Afghanistan 'falling into hands of Taliban'”Guardian [2007.11.22] http://www.guardian.co.uk/afghanistan/story/0,,2214994,00.html (アフガニスタンの民族人口割合) https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/af.html (パキスタンの民族人口割合) http://en.wikipedia.org/wiki/Punjabi_people http://en.wikipedia.org/wiki/Pashtun http://en.wikipedia.org/wiki/Sindhi http://en.wikipedia.org/wiki/Baloch (白地図) http://www.abysse.co.jp/world/index.html --- 附記:中国の民族問題 --- 中国の民族問題は、欧州/ロシアとは相当違う。 中国はいわゆる辺境部に異民族が多い。人口は多いが中国全体の人口が巨大なので少数派でしかない。チベットのような例外もあるが、多くの場合、広大な土地にバラバラと住んでいるのが特徴的。しかも、自治区と言う割には、昔のソ連とは大きく違い、自治政府の権限は限定されているようだ。(毛沢東は連邦制を嫌い、圧倒的多数を占める漢民族との直接融合を図ったということ。話言葉が全く通じないのに、簡素化した文字に統一することで、同一文化ということで、すべてを漢民族にしてしまったのである。)従って、独立運動の核は弱体に違いない。隣国のモンゴルやカザフスタンが動けば話は別だが、紛争勃発の可能性は低いと思う。 中国政府が「儒教」を重視し始めたのも、世界的な民族主義勃興を見て、異民族統治に不可欠な思想と判断したからと言えないこともない。・・・ 文化的に低レベルの東夷・西戎・南蛮・北荻(←草冠無)であっても、「徳」をつめば中華と一体と見なすという思想は、中国のグローバル展開に合っている。 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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